右京「まだ分かりませんか？　あなたが……ママになるんですよ……！」

右京「ママになりなさぁい！！！」ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ

亀山「う、右京さん！？」

芹沢「ちょっとちょっと！　やばいですよ！　止めないと！」

伊丹「おい！　押さえつけろ！」

～警察庁～

右京「愛らしい幼子を目にすると、理性を失い、たちまち襲いかかってしまう……僕の悪い癖」

官房長「その癖、なおしてよ。正義の味方のお巡りさんが未成年を犯そうとしたなんて、洒落にならないでしょ」

亀山「努力はしてるみたいなんですけどね。これがなかなか」

官房長「生まれもっての性癖はそう簡単に変わりませんか。困ったね」

亀山「はい。いっそ、切り落としちゃおうかーなんて、話してるんですけどね？」

官房長「切り落とす？」

亀山「その、右京さんのチ●コを。まあ冗談なんですけど」

官房長「いいじゃない。切り落としちゃいましょう。杉下、それでいいよね？」

亀山「えっ」

右京「僕の、聞き間違いでしょうか。今、なんとおっしゃいました？」

官房長「チ●コを切り落とすって言ったの。だめかしら」

右京「誰の、性器をでしょう」

官房長「お前らしくないね。話しの流れからして、どう考えても『杉下右京の』でしょ」

右京「お断りします」

官房長「そう？　残念。でもまあ、今後はしっかり自制しないと……分かるよね」

官房長「冗談が冗談じゃなくなっちゃうかもしれないからね」

右京「ええ。肝に銘じておきましょう、亀山くん」

亀山「はい…………いや、俺は小っちゃい子に興味ないっすから」

美和子「へぇー、それじゃ右京さんが女の子を犯そうとしちゃったんだ」

亀山「そう。今まで何度かヤバイことはあったけどさ、今度こそ駄目かと思ったよ」

右京「ご遺族の娘さんが、あまりに愛らしかったもので、つい」

亀山「『つい』で暴走されちゃたまんないっすよ。おかげで現場から追い出されちゃったんですから」

たまき「ごめんなさいね。この人、意外と節操が無くて」

亀山「いや、まあいいんですけどね？　すんでのところで止めてるんで……」

美和子「でも、実際に襲い掛かってるわけでしょ？　よく許してもらえるよね」

亀山「そこはほら、例のあの人のおかげで……」

美和子「小野田官房長？」

亀山「そ。あの人がいなかったら、間違いなく首を刎ねられてるよ。ね、右京さん」

右京「どうでしょう」

亀山「いや、絶対そうですって」

課長「よっ。暇か？」

亀山「あ、課長。おはようございます」

右京「おはようございます」

課長「いやー、今日も朝から暇そうだね」

亀山「昨日が全然暇じゃなかったですから、その分のんびりできていいですけどね」

課長「そうなの？」

亀山「色んな人に頭下げて……首と腰が痛いっすよ」

右京「亀山くん。他言は無用ですよ」

亀山「あ、すいません」

課長「もしかして、例の件。聞いたよ、アンタやらかしたんだって？」

右京「やらかした、とおっしゃいますと」

課長「またまた、とぼけちゃって。暴行未遂。しかも相手は小っちゃい女の子だったって話じゃない」

亀山「あちゃ～。さすが課長、耳が早い」

課長「そりゃね、警視庁中で噂になってるからさ。嫌でも耳に入ってくるって」

右京「お恥ずかしい限りです。あまり知られたくなかったのですが……そうですか。警視庁中で噂になっていますか」

亀山「そう思うなら、課長も協力してくださいよ」

課長「協力って？」

亀山「熟女モノのAV、持ってたら右京さんに貸してあげてくれません？　性癖矯正のために、集めてるんです」

課長「えー、持ってないよ」

亀山「ほんとっすか？　意外と貯めこんでそうですけど」

課長「やめてよ亀ちゃん。俺はノーマルだから、女子高生ものしか持ってないって知ってるくせに」

亀山「ですよね……って、十分アブノーマルじゃないですか」

課長「えっ、そうなの！？　女子高生ものは普通だろ！？　……まあ、それはともかくさ」

課長「アンタ、バツイチだろ？　ロリコンだったのに、よく結婚できたな」

右京「世間体がありますからねぇ。無理をして籍を入れましたが……初夜で耐え切れず吐いてしまいました」

課長「えぇ！？　腹上死ならぬ腹上吐か。すごいな、そりゃ」

亀山「まさか……それがたまきさんと別れた原因とか……！？」

右京「今だからこそ笑い話になりますが……当時は酷く狼狽えましたねぇ」

亀山「いや、全然笑えませんよ」

芹沢「お邪魔します」

亀山「誰がペド山だ！　ってか、ロリコン係ってなんだよ！　ひと文字も合ってねえだろ！」

伊丹「うっせ。退いてろ、シッシ。今日はおめえに用があるんじゃねえ」

亀山「あんだとぉ？」

芹沢「杉下警部に聞きたいことがありまして」

右京「なんでしょう」

芹沢「実は……昨日の事件で押収した証拠品の一部が、無くなっちゃいまして」

課長「え？　おいおい、マジかよ。まずいんじゃないの？」

芹沢「一課はてんてこ舞いですよ。外の連中に知られたらヤバイっすから」

亀山「で、何が無くなったんだよ」

伊丹「遺族の娘の下着だ」

亀山「そ、それって……」

芹沢「杉下警部が襲おうとしたロリっ子のパンツです」

亀山「おい！　おまえら！　まさか、右京さんが盗んだと思ってんじゃねえだろうな！」

伊丹「今朝、証拠品が置いてあった鑑識課にロリコン警部が来たんだよ」

伊丹「目撃者もいる。昨日の今日だぞ。疑うなってほうが無理だろうが」

亀山「だ、だからって決めつけてかかるのかよ！　お前ら、どうかしてんじゃないか！？」

亀山「右京さんが下着泥棒なんて馬鹿なことするわけねえだろ！　右京さんも、黙ってないで言ってやってくださいよ！」

右京「申しわけない」

亀山「え？　う、右京さん？」

右京「あまりに愛らしいパンツだったもので……僕の眼鏡拭きにと……つい、持ち出してしまいました」

芹沢「やっぱり……」

伊丹「あのね、分かってます？　それ、犯罪ですから」

亀山「右京さぁ～ん……」

課長「幼女の下着が眼鏡拭き代わりとは、恐れ入ったね。変態の考えることは違うな」

右京「大変申し訳ありませんでした」

米沢「いやいや、とんでもない！　どうか頭を上げください」

右京「こちらは、お返しします」

米沢「これはどうもご丁寧に……幼女のパンツを包んで渡されたのは初めてです。なかなか貴重な体験ですな」

亀山「俺からも、すいませんでした。まさか右京さんがこんなことするなんて……米沢さんも、怒られちゃったんでしょ？」

米沢「いえ、上からのお叱りには慣れてますから。それよりも、自分としては杉下警部の意外な性癖に驚きを隠せません」

亀山「あれ、米沢さん知らなかったんですか？　右京さんがロリコンだって」

右京「君、僕が誰彼構わず性癖を暴露するような人間だと思っていたんですか？」

亀山「いや、そういうわけじゃないですけど……ふたりとも、よく同じ話題で盛り上がってるじゃないですか」

米沢「まったくの初耳です。趣味は共通していますが、貸して頂いた落語のCDから性癖など読み取れませんから」

ﾌﾟﾙﾙﾙﾙ

米沢「あ、失礼します……。はいもしもし……え？　あ、はい。……今すぐ、ですか？　わかりました……」

米沢「杉下警部。その、申し上げにくいのですが……」

右京「内村部長でしょうか」

米沢「はい。『今すぐ来い』とのことで……下着泥棒の件が上に知られてしまったようですな」

内村「馬鹿者！！！！」

中園「昨日に続いて今日も……何を考えているんだ、お前たちは！」

亀山「たち？　え、あの、俺もっすか！？」

中園「特命係の問題だろう！　いいから黙って聞け！」

内村「こともあろうに、警視庁の刑事が証拠品の中から下着泥棒などしおって……杉下！　貴様、どういうつもりだ」

右京「どういうつもりも何も、僕はただ、幼女の下着で眼鏡を拭こうとした……それだけのことですよ」

内村「それだけのことではない！　これは桜田門では収まらん、日本警察の信頼に関わる！」

亀山「下着泥棒の件を知る人間は最小限に留めた、って聞いたんですけど」

中園「もはや一時の隠ぺいで済む問題じゃない！」

内村「杉下。お前の存在自体が、我々にとっての癌なんだよ。単なる腫物程度では済まされん」

内村「ただちに切除する。悪化する前にな」

右京「つまり、僕が新たなロリコン事件を起こす前に、警視庁から追い出す。そういう事でしょうか」

右京「突然僕がここを去ることになれば、周囲は怪しむでしょうねぇ。『いったい、何が原因なのか』と」

右京「角田課長の話によると、僕が強盗殺人事件の被害者の遺族に襲い掛かった件は警視庁中で噂になっているとか」

右京「多くの人がそれに結び付けるでしょうねぇ。『あの噂は本当だった。杉下右京は幼女を襲った。だから辞職するのだ』と」

右京「噂話で済んでいたはずが、真実として広まってしまうわけです。あなた方が最も恐れる事態ではありませんか？」

内村「ふん、その程度のこと、我々にだって容易に想像がつく」

亀山「それじゃ、どうするんですか？」

内村「言ったはずだ。切除すると」

中園「切除と言っても、杉下。お前を警視庁から切り離すという意味じゃないぞ」

右京「どういうことでしょう」

内村「お前のチ●コを切り落とす。そう言ってるんだ」

右京「はいぃ？」

内村「これは以前から警察庁・検察庁および法務省の間で内々に進められてきた話だ」

中園「性犯罪で有罪判決を受けた者の性器を切り落とすための法整備が進められてきた。お前たちは知らないだろうがな」

亀山「そ、そんなことが……！？」

右京「当然、小野田官房長も知っていたのでしょうねぇ」

中園「そんなことどうでもいい。今はお前のチ●コの話だ」

内村「宮刑の初の受刑者として、杉下。お前に白羽の矢が立った。光栄に思え。近代日本で初なんだからな」

右京「いわゆる身体刑ですか……あまりに時代遅れで野蛮かつ愚かな行為だと思うのですが」

内村「黙れ！　幼女に襲い掛かったり下着を盗んだりした貴様に他人の行為をとやかく言う資格など無い！」

中園「これは一種のパフォーマンスだ。自らを律する日本警察のストイックさを世間に見せるためのな」

亀山「右京さんのチ●コがその犠牲になるってんですか！？」

内村「刑の執行は30分後だ」

亀山「え！？　まだ裁判もやってないじゃないですか！　いやそもそも、逮捕すらされてないのに！」

右京「……！」ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ

片山「お久しぶりです。杉下さん、亀山さん」

亀山「か、片山議員……！？　どうしてここに！」

官房長「彼女ね、今回の法整備のためにすごく頑張ってくれたの」

瀬戸内「怖ええなぁ。男の性器を切り落とすために頭をつかう女ってのは」

亀山「瀬戸内さんまで……！」

右京「なるほど……まさに、パフォーマンス……見世物というわけですか」

瀬戸内「坊主の息子としては、こんな恐ろしい真似はさせたくなかったんだがよ。雛ちゃんにはかなわねえや」

片山「人を悪女のように言うのはやめてください。私は性犯罪抑制のために力を尽くしただけです」

瀬戸内「これだからな。刑が可決された瞬間に悪そうな笑みを浮かべてたくせによ」

官房長「日本のトップが決めたことだから。杉下もこれで諦めがつくよね」

右京「官房長……貴方は、僕から性器まで奪うおつもりですか？」

官房長「しょうがないじゃない。前から『レ●プ犯の性器を切り落としちゃえ』って話はよく出てたでしょ？」

官房長「ウケがいいと思ったんですよ。実際、許せない犯罪なわけだし。性器を切り落として死ぬわけでもなし」

右京「だからといって、性器を切り落とすような残虐な仕打ちが許される理由にはならないはずです」

右京「自由選択という形をとっています。僕には選択の余地が無い。皆さん、考え直す気はありませんか？」

片山「まぁ、往生際が悪いですね。杉下さん。法を愛する貴方なら、快く受け入れてくれると思ってました」

右京「僕の愛棒が失われようとしている……このような事態を生み出した法は、紛れもない悪です！」ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ

官房長「法は常に善であり正義だよ。だって、我々にとって同じ言葉なんだから」

執行人「時間です」

瀬戸内「名残惜しいだろうが、もうチ●コとはお別れだな。こればっかりは勘弁してくれや。なにせ法が決めたことだからよ」

亀山「右京さん……！」

右京「……！」ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ

執行人「来なさい」

亀山「右京さん！！！　俺、チ●コが無くなっても右京さんは変わらず右京さんだって思ってますから！！！」

官房長「悪の根源を断ち切って、身を綺麗にしてきてね」

右京「官房長おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

TV『先日、日本国内では初めて、刑罰としての去勢が執行され、警視庁の刑事が―――』

課長「またこれか。連日に渡る一大ニュースだな。政財界の大物も見に来たんだろ？」

亀山「はい……ほんと、どうかしてますよ。この国は」

課長「やっぱ性犯罪なんてするもんじゃないね。当の本人はまだこないのか？」

亀山「もうすぐ休職が明けるんですけど、連絡がつかなくてどこで何をしてるかさっぱりなんですよ」

課長「おいおい、まさか自殺なんて考えてるんじゃないだろうな」

亀山「やめてくださいよ！　縁起でもない！」

課長「いやだけどさ、性器切り落とされたらふつう立ち直れないよ？」

右京「……おはようございます」

亀山「あ、右京さん！！！　おはようございます！　心配したんすよ！？　どこ行ってたんですか！？」

課長「どんな感じ？　スーってすんの？　やっぱ違和感ある？」

右京「ひとつ、いいでしょうか。僕は……もう杉下右京ではありません」

亀山「え？」

右京「今日から、杉下右京子と名乗ることにしました」

亀山「杉下……右京子？」

右京子「個人的に、わずかながら違和感があったものですからねぇ」

亀山「ああ、性転換……ええええええええええ！？　せ、性転換！？」

課長「マジかよ！　女になっちゃったの！？」

右京子「性別適合手術を受け、戸籍上の性別も変えてきました」

課長「そんなことできんの！？」

右京子「通常は性同一性障害の診断結果が必要ですが、瀬戸内大臣の協力を得て、どうにか」

亀山「右京さん……！」

右京子「右京子です」

亀山「う、右京子さん……！」

右京子「たしかに、性別は変わりました……ですが、僕は変わらず、僕です」

右京子「亀山くん。君が言ってくれた言葉……嬉しかったですよ」

亀山「え？」

右京子「『チ●コが無くなっても右京さんは変わらず右京さん』……チ●コの有無など、些末な問題なのかもしれません」

亀山「はい……はい！　そうですよ！　俺、右京さ……右京子さんがどうなっても、一生ついていきます！」

右京子「失礼、電話が」

ﾋﾟｯ

右京子「杉下です」

米沢『お久しぶりです。杉下警部が復帰されたと聞きまして、是非お伝えしたい件が』

右京子「事件でしょうか」

米沢『はい。現場の住所をメールしますので、よろしければ』

右京子「ええ。すぐに向かいます」

ﾋﾟｯ

右京子「亀山くん」

亀山「事件っすね？」

右京子「行きましょう」

亀山「はい！」

右京子「……」

亀山「右京子さん？」

ショタ「わーいわーい」

右京子「……」

亀山「あの、右京子さん？　どうしたんですか。あの子はたぶん事件とは無関係ですよ？」

右京子「君、僕をママにしてくれませんか？」

ショタ「え？」

亀山「ちょ、右京子さん！？」

ショタ「おじさん、何言ってるの？」

右京子「まだわかりませんか？　僕が、ママになるんですよ！！！」

ショタ「わー！」

亀山「右京子さん！！！」

伊丹「おいおい！　なんだよ！　何の騒ぎだ！？　現場の近くで何暴れて……って、またかよ！！！」

芹沢「ちょっとちょっと～！　まずいですよこれ～！」

～警察庁～

右京子「愛らしい幼子を目にすると、理性を失い、たちまち襲いかかってしまう……僕の悪い癖」

小野田「チ●コを切り落としても悪い癖は治らないんだね。ひとつ勉強になりました」

亀山「右京子さん……すいません。俺、もう無理です。相棒解消しましょう」

END