
1: 名無しで叶える物語(しまむら) 2021/11/16(火) 23:10:11.91 ID:+bLWr1wY
↑SSのかすみ視点のおまけ編
地の文あり短め
何故かって? 理由は簡単。他人に迷惑をかけるから。
別に一人で何かするのなら何も文句は言わない。ただ、“不良と呼ばれる人種”が他人に迷惑をかけないだろうか?
答えは否。そう呼ばれる人達は、基本的に人に迷惑をかける。
喧嘩。イタズラ。授業をサボる。そして騒ぐ。挙げたらキリがない。これらの行為は誰かに何かしらの迷惑をかけている行為なんだ。
両親、クラスメイト、教師。――これも挙げたらキリがない。
何度授業中に騒がれて集中出来なかった事か。スクールアイドルの練習をしている時にからかわれた事もある。
――ただ、それは不良というよりもそういう行動をする人間が嫌いなのでは? と思われるだろう。うん。間違ってはいないと思う。
でも、私が人生を過ごしてきて不快に思ってきた人達は、皆不良と呼ばれている人種だったんだ。
その結果、イメージがついてしまったんだ。――不良は私にとってノイズでしかないとね。
私がデザインした衣装。それが描かれたノートが、イタズラされている。
どんな気持ちでこんな風にバラバラにしたんだろうか。なんとも思っていないんだろうか。
犯人は知っている。クラスメイトの“不良”だ。イタズラしているのを、ずっと見ていた。最後までやりきるのか、見ていた。結果がこれ。――あぁ、ムカつくなぁ。
かすみ『……大っ嫌い』
かすみ「…………」
朝の日差しがカーテンの隙間から部屋に降り注ぐ。かすみんの歌がスマホから鳴り響き、アラームとして私を起こしてくれる。
かすみ「……やな夢みた……」
朝5時半。――中須かすみは起床した。
中須かすみの毎日の流れ。
早起きして軽めのジョギング。ストレッチをして身体を解す。大体45分。
そのまま家に戻り汗を軽くシャワーで流す。身嗜みを整え、朝ご飯を食べる。
ママと話す。パパは朝早く先に家を出ちゃうから、その分夕ご飯の時に話す。
「かすみちゃん、今日は中間テストなんだっけ?」
かすみ「うん。予習はしてあるから大丈夫だと思う。テスト期間だからお昼に学校は終わるけど、スクドル活動するから今日もいつも通りの時間くらいに帰ってくるね」
「うん。分かった。かすみちゃんは毎日偉いわね~」
かすみ「……うん。ありがとう」ニコッ
自然と笑みが零れる。自分でも愛されているなと思う。家族との時間が大好き。だからこそ、立派に成長しなければいけない。
――昔みたいに天狗になってはいけない。常に高みを目指して行動しなきゃいけない。
「え~? いいのよかすみちゃん。学校行くまでゆっくりしてて?」
かすみ「ううん。やるから。ママが休んでて」
――今日も一日頑張っていこう。
中間テストも無事に終わり、一番楽しい時間が始まる。部活の時間だ。
部室に向かって早歩き。通り道にある鏡で髪を整え笑顔を作る。
――うん。今日もかすみんは可愛い。
この可愛いを当たり前のものにしなければいけない。目指せナンバーワンスクールアイドル。
かすみ「ん? あれ……」
歩いている途中でとある先輩を見つけた。
歩夢「んしょ、んしょ……」
かすみ「……」
桃色の綺麗な髪をポニーテールにしてまとめ、ゆさゆさとそれが揺れている。彼女は上原歩夢先輩。――元不良だ。
両手で紙の束を持ちながら、歩いている。重そう。危なっかしい動作で運んでいる。
――今朝、嫌な夢を見たから思い出してしまう。私は不良が嫌いである。
でも、ここ最近考え方が変わってきてしまった。
歩夢先輩も愛先輩も良い人だ。近くで見てきて、最近そう思うんだ。
だからこそ、なんで今まで不良として喧嘩ばかりしてきたのか気になる。
紙の束をゆっくり運ぶ歩夢先輩。本当に彼女は虹ヶ咲学園の狂犬と呼ばれていた不良なんだろうか。疑問が尽きない。そんな事を考えていると――
歩夢「うわわわわっ!?」
かすみ「あ、歩夢先輩!」
彼女が何かに躓き、転びそうになる。上手く身体を動かして転ばないようにバランスを整えているけれど、時間の問題だろう。
私が急いで彼女の元まで走り、彼女の身体を支える。
足元にプリントが散らばる。
けど、歩夢先輩は無事だった。
歩夢「へ? かすみちゃん?」
かすみ「ま、間に合ってよかった……」
ほっと一息、安堵する。ポカンとしている歩夢先輩は目をパチクリさせていた。
歩夢「え、えっと……全部シュレッターにかけるプリントなんだけど、先生が困ってたから」
かすみ「他に手伝える人、いなかったんですか? てか先生は? なんで歩夢先輩だけが運んでいるんですか?」
歩夢「皆中間テストの勉強で忙しいだろうし、先生も大変だろうから。私一人でも運べる量だったし、大丈夫ですって伝えたの」
かすみ「はぁ……歩夢先輩だって勉強あるじゃないですか」
歩夢「あ、あはは……私は別に、うん。勉強しなくてもその……分かっちゃうから」
かすみ「はぁ~? 優等生アピールですか~?」
歩夢「あっ! えっと、違うの! ごめんね。ちょっと嫌味に聞こえちゃったよね!?」
焦りながら訂正する歩夢先輩。まるで不良のような雰囲気はない。
歩夢「へ? 冗談だったの? もぉ~、やめてよかすみちゃん……」
肩を落とし、落ち込む歩夢先輩。――まるで不良のような雰囲気はない。
かすみ「……」
歩夢「あれ? かすみちゃん?」
かすみ「歩夢先輩って、なんで不良だったんですか?」
気になっていた事をようやく聞けた。
すぐに即答されるかと思っていた。
だって、何か理由があったと思ったから。じゃなければ、こんなお人好しの方が不良として過ごしていた意味が分からないもん。
でも意外な事に歩夢先輩は困ったような表情を作った。
歩夢「うーん……なんでなんだろうね?」
かすみ「いやいや、質問に質問で返さないで下さいよ……」
歩夢「あはは……ごめんね」
この時は、あまり言いたくないから適当に誤魔化したのかなって思った。
だから深くは突っ込まないようにしようと思ったんだ。
歩夢「えぇ!? いや、大丈夫だよ。悪いもん」
かふみ「転びそうになっていた方を見過ごすなんて嫌ですから。手伝わせてください」
歩夢「……ふふっ」ニコニコ
かすみ「なぁに笑ってるんですか」ジトー
歩夢「ううん。ごめんね?」
歩夢先輩は、優しく微笑む。
歩夢「ありがとうかすみちゃん。かすみちゃんって本当に優しいよね。いつもありがとうね」
かすみ「いや、やめてくださいよ。……褒め過ぎです」プイッ
歩夢「あはは、ごめんね?」
かすみ「もう……すぐに謝らないで下さいよ」
歩夢「うん。分かった」
――こんな時間が、ずっと続くと思っていた。
この時は、それが当たり前だと思っていたんだ。
かすみ「歩夢先輩……! うあぁ……ッ……!」
あれから少し、時間が経った。
歩夢先輩がある時、練習前に倒れてしまった。心配だったけれど、無事だったとせつ菜先輩に聞けた。
その翌日、歩夢先輩からスクールアイドル同好会の全メンバーが彼女の家に呼ばれた。
そして――告げられた。
かすみ「ひっぐ……ぅう……なんで……あの人が……!」
――彼女が、消えてしまう事を。
それから色々あり、集まりは解散となり家に帰ってきた。
帰ってきたけれど、涙は止まらず今こうして部屋に閉じこもっている。
ママが心配するように部屋の前で声をかけてくれたけれど、相手をする余裕が無かった。
信じられない話だった。
私がよく知る歩夢先輩は、“別世界の歩夢先輩”だった。そしてそれが消えてしまい、もう彼女はいなくなるのことを告げられた。
何もかも信じられない。別世界ってなに? なんでこんなこと起きているの? 消えるってなに? いなくなるってなに!?
疑問しか浮かばなかった。けれど、涙が止まらなかった。
だって、全部辻褄が合うんだ。彼女が変わった理由も、時より困ったような表情を作る事。あんまり自分の事を、理解していないかのような言動があったことも。
全て――辻褄があってしまったんだ。
かすみ「なんで私は……そんな人に対して……あんな酷いことを……!」
歩夢先輩に会った時に告げてしまったことを、激しく後悔してしまった。
暫く泣き止むことが出来ず、時間だけが過ぎていった――
かすみ「……」
どんなに悲しくたって、人間には体力がある。泣き疲れてしまった。悲しくて泣きたかったけれど、もう出る涙が目に残っていない。
かすみ「……歩夢先輩……」
私はあの人の事が好きになっていた。
最初はなんでスクールアイドルになりたいのかを近くで見る事が目的だった。
けれど、気が付くと自然に彼女を目で追ってしまうくらいには、心を奪われていた。憧れの存在になっていた。
元不良とか、どうでも良くなっていた。
かすみ「……そもそも……あの人は不良じゃなかったのに……」
ため息が零れる。謝りたい。けれど、もう時間が無い。
あの人は、もういなくなってしまうと語っていた。後悔ばかりが残ってしまう。
その時だった。スマホにメッセージが届いた。私はそれを確認する。
せつ菜先輩から届いたものだった。
内容は、明日の打ち合わせ。
虹ヶ咲学園へ向かう途中、1人ずつ彼女と会話をしようという内容だった。
あぁ、歩夢先輩は本当に消えてしまうんだ。これが、現実なんだ。そう思ってしまった。
歩夢『――“この子”の事を、知ってほしい』
かすみ「あっ……」
ふと、歩夢先輩の言葉を思い出す。
すぐにカバンを開け、中から日記を取り出す。
彼女から、受け取ったもの。
――この世界の、上原歩夢先輩の過去が綴られた日記。
かすみ「……」
私は、それを読んだ。
歩夢先輩の願いの為に。
・
・
そこには、全てが書かれていた。
上原歩夢先輩の、過去が書かれていた。
五十嵐若葉さんとの出会い。彼女が早くから父を亡くしていた事。……辛い過去があったこと。不良になってしまった理由が分かる出来事等が――綴られていた。
かすみ「…っ…!」
日記に、涙が落ちる。あぁ、また涙が溢れ出てくる。
しずく『――私は、その人が好きで……不良とかになったわけじゃないと思うの』
しずく『家庭環境とか、周りの人の影響だったり、何か道を外したくなる出来事があったのかもしれない』
しずく『人の生き方ってさ。何かがきっかけで、簡単に変わってしまうものだと思う』
親友であるしずくから聞いた言葉を思い出す。
かすみ「……しずくの言う通りだったんじゃん……!」
後悔ばかりが、残る。やり直したい。もっと歩夢先輩と話したい。謝りたい。抱きつきたい。甘えたい。もっと一緒にいたい。
かすみ「歩夢先輩……! ごめんなさい……――うあぁぁぁん……!」
人生で一番泣いてしまった瞬間は、この時だと思う。大人になっても、そう語ると私は思う。
こうして夜は過ぎ、翌日に彼女を音楽室へ送り届け――私のよく知る歩夢先輩は消えてしまった。
私は中須かすみ。スクールアイドルだ。そして、不良が嫌いである。
何故かって? 理由は簡単。私の考え方を変えたから。
他人に迷惑をかける“不良と呼ばれる人種”は、今でも好きじゃない。
けど、人にそれぞれの人生がある。皆、苦労もあれば楽しい事も悲しい事も、沢山体験して大人になっていく。
不良だって、好きでそうなったわけじゃない。人によるかもしれないけれど、それを知らずにただただ嫌いであり続けるのは、可愛くない。
そんなのは、かすみんじゃない。
かすみんは努力家だから、思い込みで人に対して冷たい態度を取ってはいけないんだ。――あの人みたいに、優しくならなきゃいけない。
かすみ「……」
歩夢先輩の家の前で、彼女を待つ。この世界の歩夢先輩を待つ。
歩夢「行ってきます」
扉が音を鳴らし、彼女の姿が目に映る。
歩夢「え?」
かすみ「…………」
歩夢「中須かすみ……ちゃん……」
怯える歩夢先輩が、目に映る。
かすみ「お、おはようございます! 歩夢先輩」
――私は彼女に元気よく挨拶をして、笑顔を作る。
これからは私が彼女に恩返ししていこう。大変な人生を歩んできたこの方に――楽しい時を過ごしてもらおう。
あの人みたいに優しく。
私はそう強く誓った。
このシリーズ好き。できればもっと続いて欲しい
リアルでも優しさを持って生きていきたいな
他のみんなのサイドストーリーも読みたくなる
シリーズ化して続けてほしい
引用元:https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1637071811/

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